本書は、中国の儒教経典で、孔子の言行をまとめた古代の書物『論語』に対する山本楽所(惟孝)の注釈書。和歌山藩校学習館が出版し全国に販売したが、現存するものは多くなく稀見に属する。山本楽所(惟孝は本名、1764〈明和1年〉〜1841〈天保12年〉)は和歌山藩の儒者。江戸時代の『論語』講読は、宋の朱熹(1130〜1200)による注釈書『論語集注』(ろんごしっちゅう)が主流であった(これを新注という)。それに対し、三国魏の何晏(190〜249)による注釈書『論語集解』(ろんごしっかい)は中世を通じて流行したが(これを古注という)、江戸時代は朱熹注にその地位を譲っていた。
 ところが、伊藤仁斎(1627〜1705)や荻生徂徠(1666〜1728)等が古注を宣揚すると、再び何晏の古注を主とする学風が起こり、市野迷庵(1765〜1826)の『正平版論語札記』、山井崑崙(1680〜1728)の『七経孟子考文』、吉田篁?(1745〜1798)の『論語集解考異』等が著された。古注を尊ぶ学問は中国にも影響を及ぼし、考証・校勘の学問をわが国に確立する契機となった。本書はこうした先人の業績を受けて、古注をもとに校訂を施し、煩を捨てて簡に帰し、諸注を参考に加え、読みやすく且つ権威ある教科書として編纂したものである。
 他に、和歌山藩は、為政者の経典である『貞観政要』を文政5年(1822)に、『群書治要』を弘化3年(1846)に出版し、政治法令研究では、明王朝の『大明会典』に詳細な訓点を施すなど、藩政のみならず幕政を支える学術文化への貢献は目覚ましかった。従って、本書は、『論語』の好テキストとしての価値は言うまでもなく、更に、紀州の漢学の奥深さを垣間見る貴重な文献である。



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